西田研究室:保全生態学研究室

私たちの研究室では、希少生物の保全や増えすぎて困る生物の管理を、生物の力をうまく利用して合理的にコントロールすること目指しています。しかし、これだけ科学が発達した現在でさえ、希少種と害虫や雑草など増えすぎて困る種はどこが異なるのかは、よくわかっていません。そのため、希少種を保全するためには単に生息場所の保全を図るしか手がありません。逆に、害虫や雑草退治には殺虫剤や除草剤を撒いたり、人力でつかまえたり引っこ抜いたりという原始的な方法が採られています。いずれの方法も労力と時間がかかる上に、うまくいっていません。このような問題を解決するために、これまで見過ごされてきた生物の能力をうまく活用することを考えています。着目しているのは、生物が捕食者に食われないようにするための工夫(捕食回避策)と、近縁種のオスが間違って別種のメスに求愛することによって生じるハラスメント(繁殖干渉)です。

捕食回避策として現在調べているのは、水田や休耕田におけるバッタ類とその捕食者であるカエル類、そしてカエル類の捕食者であるサギなどの鳥の関係です。水田や休耕田には多種のバッタが生息していますが、カエルの胃の中からはバッタ類はほとんど見つかりません。つまり常識とは異なり、カエルはバッタを食べていないのです。その理由は、バッタがカエルに食われないためのさまざまな捕食回避策(食べられにくい姿勢で硬直する、植物の茎の裏にまわる、カエルに飲み込まれないためのさまざまな技)を進化させているためです。一方、カエルもサギに食われないための得意技があることが分かってきました。その方法とは、予想外の方向に跳んで逃げることです。まだ研究中ですが、人間と同じく鳥も、生物の逃げる方向を予測して襲うので、カエルが予測外の方向に跳ぶことは、捕食回避に役立っていると推測しています。写真1はカエルの飼育網室で、写真2はカエルの跳び方の実験をしているビニールプールを示しています。


写真1


写真2

繁殖干渉の例としては、果実や野菜の大害虫であるミバエ類の寄主植物の選び方、タナゴ類のすみわけ(写真3はタナゴの野外調査をしている水路です)、在来・外来タンポポ類、外来カマキリによる近縁な在来カマキリの駆逐などを調べています(写真4はカマキリの実験網室、写真5はカマキリの配偶行動のようすです)。ミバエの中でも世界最強の害虫がミカンコミバエです。現在、南西諸島や九州などに侵入して被害を拡大しています。数年前には、奄美や屋久島でミカンコミバエ退治のためにすべてのミカン類の果実が廃棄されたという被害が発生しています。ミカンコミバエの退治に近縁なミバエの力を利用できないかを調べています。

写真3

写真4

写真5

「ぼてじゃこ」と呼ばれるタナゴ類は身近な淡水魚で、二枚貝に産卵するという奇妙な産卵習性をもちます。そのため卵の生存率が高いという有利さがありますが、それにもかかわらず多くは希少種です。タナゴ類が減った理由の一部は、河川改修や圃場整備など生息場所の改変が理由です。しかし、同じ生息場所に、個体数が減らないタナゴ種もいることや、分布が排他的なことから、タナゴの種間に強い負の相互作用があると推定できます。ところが、タナゴの1種であるアブラボテとカネヒラでは、アブラボテが春・夏繁殖でカネヒラは秋繁殖と繁殖時期が完全に分かれています。そのため、産卵対象である二枚貝をめぐる排他的行動も繁殖干渉も生じる可能性はないと推定されます。それでは、なぜカネヒラはアブラボテから強い負の相互作用を受けるのでしょうか?研究の結果、アブラボテは非繁殖期の秋・冬にも、二枚貝に対して疑似産卵行動や疑似放精行動を繰り返しておこない、これが秋に繁殖するカネヒラの繁殖を強く妨げることが分かってきました。現在、なぜそのような一見、無駄な行動をアブラボテが行うのかを調べています。生物の世界には、常識的な予測を超える変な行動や習性に満ち溢れています。